7階のドアの前には、看板が立っていた。 『清掃中につき、少々お待ちくださいませ』 べつに不自然なことではない。  人の住む住まないに関わらず、建物は自然 と汚れるものだ。ましてこれだけ巨大な建物 である。掃除するのはさぞかし大変だろう。  が、俺にも都合というものがある。  はいそうですか、と待ってはいられない。  悪いとは思いつつも、俺は部屋に入った。  そこには、せっせとモップで床を磨く少女 がいた。格好を見るにメイドさんのようだ。 (この娘が、刺客なのか?)  来訪者に気付く様子もなく、ひたすら清掃 作業に没頭する彼女の姿は、とても刺客とは 思えない。が、この部屋に彼女以外の人影が ないのもまた事実なのである。 迷っていても仕方がない。  とりあえず、俺は彼女に声をかけた。 「あのさ、お掃除中に悪いんだけど……」  その刹那。 「ああ゛〜〜っ!!」  素っ頓狂な声を上げて、彼女は叫んだ。  その視線は俺の歩いてきた床の上……見事 に真っ黒な靴跡に釘付けになっていた。 「お掃除中って、書いておいたのに〜っ!」 すかさず彼女はダッシュすると、猛然と床 の足跡を拭き取り始めた。そのあまりの勢い に、ただただ俺は呆然とするばかりだった。 「お客様、自分の靴の汚れぐらいはきちんと 把握しててくださいよね!」  有無を言わせぬ勢いで、彼女が言う。 「ご、ごめん」 これで靴を拭いてください……差し出され た雑巾で、俺は靴の汚れを拭い始めた。 「そうそう……そうやって綺麗にしておくの が、礼儀ってもんです」  満足げに、彼女は笑った。  彼女の名は宮下澄美(みやした・きよみ)。  この塔の清掃係であり、そして……。 「お客様のお相手をする7人目の刺客です」